「無一物中無尽蔵」お茶のひととき


11月は、もう終りですね。振り返ってみればこの月はお茶席のご奉仕が一番大変で、また一番面白かったことでした。その時お世話になったお茶友さんにご自宅のお茶室に招かれました。お茶の友達といっても、hahatenより若いけれどキャリアは大先輩なんです。
お茶室は八畳の広間。炉では炭がおきて、しゅんしゅんと大きな釜にお湯が沸いておりました。床の間には「無一物中無尽蔵」大徳寺昌道老師の掛け物、そして備前の花入れに椿と白式部。一人の客ではもったいないほどの設えでした。そして、お濃茶とお薄をいただきました。
外は荒れた天気の一日。次第に暗くなる部屋の中でお湯の沸く釜の音だけが聞こえ、まったりとした時が流れました。
掛け物の「無一物中無尽蔵」は北宋の詩人であり、禅家でもあった蘇東坡の詩の一節。我執我欲を捨て、心を謙虚にして物事を見れば、そこにはたくさんの豊かさが満ち満ちてくる、という禅の悟りを表したもののようです。心を虚しくするなんてできないことですが、せめてお茶室の中だけでも「素」の心を保てたらうれしいと思いました。